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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)2866号 判決 1991年1月29日

控訴人

川瀬文子

控訴人

加藤恒子

右両名訴訟代理人弁護士

柱実

被控訴人

小柳長吉

右訴訟代理人弁護士

江守英雄

右訴訟復代理人弁護士

河原一雅

主文

被控訴人は控訴人らに対し、別紙目録一3の土地上にある植木を収去して同土地を明け渡せ。

控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人らの、その余を被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「被控訴人は控訴人らに対し、別紙目録二2の建物(以下「本件物置」という。)及び同目録一5の土地(以下「本件5の土地」という。)上にある植木を収去して同土地を明け渡せ(当審において訴えを交換的に変更)。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、当審における新請求棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張

1  控訴人ら

(請求の原因)

一  控訴人らの父永澤真一(以下「真一」という。)は、昭和二三年六月、被控訴人に対し、真一所有の同目録一1、2の土地(以下「本件土地」という。)を被控訴人に農作物の干し場及び植木の植栽を目的として期間の定めなく賃貸した。ところが、被控訴人は、昭和四一年ころ、本件土地のうち、別紙添付図面(二)イ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、イを直線で結んだ部分をロ、ニ間とニ、ヨ間に垣根を設置して区分し、その部分(以下「本件建物敷地部分」という。)に居住用として同目録二1の建物(以下「本件建物」という。)を建築し、以後右部分は建物所有を目的として使用してきているが、その余の部分については、本件土地の東北側に本件物置を建築して農作業場として使用しているほかは、植木の植栽を継続してきて今日に及んでいる。

したがって、本件建物の建築により建物所有を目的とする賃貸借に変更されたのは、本件土地のうち、本件建物敷地部分及びその通路として必要な部分のみであり、それ以外の部分、すなわち本件5の土地は借地法の適用を受けない賃貸借である。

二  真一は、昭和六一年二月七日死亡し、控訴人らが相続により本件土地の所有権を取得し(持分各二分の一)、右貸主の地位を承継した。

三  控訴人らは被控訴人に対し、昭和六三年一一月二二日付け準備書面をもって、本件土地のうち本件建物敷地部分を除くその余の土地についての賃貸借契約を解約する旨申し入れ、同日の当審第一回口頭弁論期日において、右準備書面は陳述されたので、その翌日から一年経過した平成元年一一月二三日に右土地部分の賃貸借契約は終了した。

四  よって、控訴人らは右賃貸借契約の一部終了を原因とし、被控訴人に対し、本件物置及び本件5の土地上の植木の収去及び同土地の明渡しを求める。

2 被控訴人

(請求原因に対する認否)

一  第一項の事実のうち、控訴人主張のとおり、真一が本件土地を被控訴人に賃貸したこと、被控訴人が垣根、本件建物、本件物置を建築所有したことは認めるが、その余は争う。

被控訴人は、本件土地全部を建物所有を目的として賃借したものである。

仮にそうでないとしても、被控訴人が、本件建物所有のために使用占有しているのは、本件土地のうち同目録一4の土地(以下「本件4の土地」という。)であり、その使用態様は、本件建物、本件物置のほかは、庭・通路及び自動車の駐車場として使用しているもので、右本件4の土地全体が本件建物の敷地というべきである。

二  第二項の事実は不知。

三  第三項の解約の申し入れの事実は認めるも、その効果については争う。

(抗弁)

被控訴人は、同目録一3の土地(以下「本件3の土地」という。)については、本件建物の建築後、専ら樹木及び苗木等の植栽のための肥培管理を継続してきているから、同土地は、農地法の適用ある農地に該当し、その賃貸借契約を解約するに当たっては、同法二〇条により都知事の許可を要するものである。

したがって、控訴人がその許可を受けないでした前記解約の申し入れは無効というべきである。

3 控訴人

(抗弁に対する認否)

抗弁事実のうち、被控訴人が本件3の土地で植木を植栽していることは認めるが、苗木として植栽している部分は、本件建物の南側に僅かな部分であり、そのほかの大部分は成熟した樹木で販売のために植栽されているにすぎなく、このような状態の植栽は、いわゆる肥培管理にあるとはいえず、したがって、本件3の土地は、農地法上の農地に当たらないものというべきである。

三 証拠関係については、当審及び原審の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一被控訴人が、昭和二三年六月、真一から同人所有の本件土地を農作物の乾し場及び植木の植栽のために賃借したこと、その後被控訴人が本件物置を設置し、昭和四一年に本件建物を建築所有するに至ったことは、当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、昭和六一年二月七日真一が死亡し、控訴人らは、本件土地の所有権を相続により取得したことが認められる。

三<証拠>を合わせると、次の事実が認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

被控訴人は、昭和二三年六月、親戚に当たる真一からもと桑畑として使用されていた本件土地を農作物の乾燥場等として使用することを目的として、期間の定めなく賃借し、同年七月、東京都知事あてに、国分寺町農地委員会の異議なき旨の意見書を付して、本件土地を耕作目的から大部分を農事用庭として使用するための農地使用目的変更許可申請をしたこと、被控訴人は、昭和三〇年頃から昭和四〇年頃にかけて本件土地を藁加工の仕事場としたり、同地上に鶏舎を建てて養鶏のため使用し、昭和四〇年頃からは右養鶏に代え植木の植栽を始めるとともに、本件土地の北東側に本件物置を建築し、また、昭和四一年には真一の承諾を得て、本件土地の北西側に貸家としての本件建物を建築するとともに、別紙図面(一)のB点とC点を結ぶ部分(同図面二のハ点とニ点を結ぶ部分も同じ。)には垣根を設置し、本件建物とその南側を区分して、南側は植木の植栽地として使用したこと、本件4の土地のうち本件物置の周囲の空地は道路から本件建物、本件物置への出入口及び借家人等の駐車場として右建物と一体として使用されていること、本件3の土地は、被控訴人が植木の植栽等に使用しており、本件3の土地と4の土地は明確に区分して使用されていること、仮に本件建物の所有に必要な土地の範囲を控訴人主張のように区分すると、被控訴人の使用状態を無視することとなり、新たに通路を設置したり、本件物置を取り壊さざるを得ないこととなることが認められる。

以上の事実によれば、被控訴人は、もともと建物所有を目的とせずに本件土地を賃借したものであるが、賃借期間が永くなるにつれ利用状況も逐次変化し、本件建物が建築された昭和四一年以降においても本件土地の全部が建物所有を目的とする賃貸借に変更されたものではなく、本件土地が建物所有を目的とする部分とそれ以外の植木の植栽等に使用する部分に明確に区分して使用されている等前記認定の本件の特殊事情のもとにおいては、本件土地の一部は建物所有の目的でその余の部分は建物所有以外の目的で賃借しているものと認めるのが相当である。そうすると、本件土地の賃貸借につき借地法が適用されるのは、本件建物、本件物置の所有に必要な範囲にとどまるものというべきであり、その範囲は、被控訴人も自認するとおり、本件4の土地に限定されるべきものであり、本件土地から本件4の土地を除いた部分、すなわち、本件3の土地の賃貸借について借地法の適用はないものと解すべきである。

四次に、被控訴人は、本件3の土地は植木の植栽のために肥培管理しているから、農地法の農地に当たり、その解約については都知事の許可を要すると主張するので、この点について判断する。

1 農地とは「耕作の目的に供される土地」(農地法二条一項)をいうのであって、その土地が農地であるかどうかは該土地にいわゆる肥培管理が施されているか否かによって決定すべきものであり(最高裁判所昭和五六年オ第一〇六九号・昭和五六年九月一八日第二小法廷判決・集民一三三号四六三頁、判例時報一〇一八号七九頁)、登記簿上の地目や当事者の主観的意図に左右されるものではなく、専ら当該土地の客観的状態により判断されるべきである。

2 そこで、本件のような植木の植栽地における肥培管理とはどのような管理を指すかであるが、苗木から栽培するには、施肥、薬剤散布、除草等の作業を要するものであるから、これらの作業を総合して肥培管理ということができ(同判決参照)、したがって、本件3の土地が農地であるためには、右のような作業がなされていることが求められるものというべきである。

3  <証拠>を合わせると、植栽されている植木のほとんどが販売目的のために移植された成熟樹木で肥培管理が行われていることは窺われず、苗木として植栽されているものは成熟したものと比較してごく僅かな面積に散見されるにすぎないこと、右苗木はいずれも移植されて間もない状態にあることが認められ、右事実によれば、本件3の土地全体としては、販売目的の成熟樹木の管理が主であり、苗木栽培はごく一部にすぎないのみならず、苗木に対する肥培管理の実態も明らかでないから、これをもって、被控訴人が本件3の土地を肥培管理しているといえないことは明らかである。したがって、本件3の土地は農地とはいえないから、被控訴人の抗弁は理由がない。

五請求原因三項の賃貸借契約解約の申し入れの事実については当事者間に争いがなく、本件記録によれば、控訴人らは、本件土地のうち、本件建物敷地部分を除く289.65平方メートルの土地に係わる賃貸借契約の解約申し入れをしたことが明らかである。したがって、その一部に含まれる本件3の土地に関する部分についての賃貸借契約解約の申し入れは有効であるから、民法六一七条一項により右申し入れの日から一年を経過した平成元年一一月二二日をもって右土地部分の賃貸借契約は終了したものと解するのが相当である。

また、弁論の全趣旨によれば、本件3の土地に植栽されている植木は全て被控訴人が権原により植栽したものであって、右土地と独立して被控訴人の所有するものであることが認められるから、右植木収去を求める控訴人らの請求も理由がある。

六よって、控訴人の本件請求は、本件3の土地について植木の収去及び同土地の明渡しを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は失当として棄却すべきであり、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官時岡泰 裁判官沢田三知夫 裁判官板垣千里)

別紙目録一

1 東京都国分寺市東元町四丁目壱四八四番

宅地 331.96平方メートル(公簿面積)

2 同所壱四八五番壱

宅地 21.56平方メートル(公簿面積)

3 右1、2の土地のうち別紙添付図面一のA、B、C、D、E、F、G、Aの各点を直線で囲んだ土地

158.21平方メートル(実測面積)

4 右1、2の土地のうち右図面のB、H、I、E、D、C、Bの各点を直線で囲んだ土地

163.41平方メートル(実測面積)

5 右1、2の土地のうち同図面二のト、ロ、ハ、ニ、ネ、ナ、ラ、ソ、カ、ヌ、リ、チ、トの各点を直線で囲んだ土地

231.32平方メートル(実測面積)

別紙目録二

1 東京都国分寺市東元町四丁目壱四八四番地

家屋番号 壱四八四番

木造厚型スレート葺平屋建居宅壱棟

床面積 34.90平方メートル

2 同所同番地

木造トタン葺平屋建物置 一棟(添付図面一斜線部分)

床面積 19.83平方メートル

別紙図面(一)(二)<省略>

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